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 最新研究の御紹介



第11号:2015年10月9日

.幼少期の逆境的環境は脳を変えてしまう!
Jensen et al. Effect of early adversity and childhood internalizing symptoms on brain structure in young men. JAMA Pediatr. 2015;17: doi: 10.1001/jamapediatrics.2015.1486.

【短縮版】 6才までの逆境的環境は、子ども時代のうつ病や不安症状などと関連し、直接的にも間接的にも、長期にわたって脳の構造を変化させる可能性があることが分かりました。

<研究所からのComment>
 子ども時代の負の経験とその後の人生における困難さについて、何らかの関連があるのではないか、と経験的に感じている方は多いのではないでしょうか。
 もちろん負の経験があっても、良い人生を送る人もたくさんいます。しかし、その後の人生へのリスクを減らすためには、やはり幸せな幼少時を送った方がいいだろうと、大方の方は考えるのではないかと思います。
  この研究では、虐待やDV目撃、近親者の喪失など、子どもの心に大きな負荷をかける経験が、その時ばかりでなく、後の時期の精神疾患や脳自体に何らかの影響を与えるかどうかについて検証をし、その関連を明らかにしています。 子どもにとっての安心、安全がどれほど重要なものであるかについて、私たちは社会全体の理解としていかなくてはならないのではないでしょうか。

(以下、詳細)
 幼少期のストレスフルな出来事、虐待、家庭内暴力といった逆境的環境は脳の構造的変化を引き起こすこと、またうつ病や不安などの精神症状と関連していることが報告されています。
  この研究では、幼少期の逆境的環境と児童・青年期の精神症状が、脳の灰白質(神経細胞の細胞体が集まる部分)の容積に、直接的または間接的にどのような影響を及ぼすのかが調べられました。
  研究は英国の出生コホート研究(ALSPAC)に参加した494組の母子(子どもは男の子のみ)を対象に行われました。 6才までの幼少期の逆境的環境(近親者の喪失、家庭環境の不安定さ、子どもまたは母親への暴力)、7才、10才、13才時点の精神症状(うつ病、不安症状)、18~21才の間の脳の構造変化について調べられました。
  その結果、以下のことが分かりました。

・ 幼少期の逆境的環境は、前帯状皮質の灰白質の容積減少と楔前部における灰白質の容積増大に直接的に関連する。
・ 児童・青年期の精神症状は、右上前頭回における灰白質の容積減少に直接的に関連する。
・ 幼少期の逆境的環境は、児童・青年期の精神症状と密接に関係し、このことが上前頭回の容積減少と間接的に関連する。

  これらのことから、6才までの逆境的環境は児童・青年期の精神症状と密接に関連し、大人になってからの脳の構造をも変えてしまうことが分かりました。 逆境的環境は、脳の構造を直接的に変化させ、また精神症状を発症することによって間接的にも変化させることが分かります。
  うつ病の人の脳の構造変化は以前にも報告されていますが、逆境的環境とそれによる精神症状が及ぼす脳への影響については、特に、早期の介入によって、逆境的環境にあった子どものうつ病や不安を未然に予防し、脳の構造変化を起こらないようにすることの重要性を示唆するものといえるでしょう。

【用語解説】
前帯状皮質:血圧や心拍数の調節等の自律的機能の他に、報酬予測、意思決定、共感や情動といった認知機能に関わっているとされている。
楔前部:頭頂葉内側面の後方にある。視空間イメージ、エピソード記憶の再生、感覚情報を基にした自身の身体のマップ等の機能をもつと考えられている。
上前頭回:前頭葉の上側約3分の1の領域を占める。感覚器の活動と連携して、自己認識に関係しているとされている。



第10号:2015年9月25日

自閉スペクトラム症の方のiPS細胞から脳の発達過程を探る!
FOXG1-Dependent Dysregulation of GABA/Glutamate Neuron Differentiation in Autism Spectrum Disorders. Mariani et al. Cell 2015: 162; 375-390.

 自閉スペクトラム症の方のiPS細胞から脳組織を作り出し、その発達過程を探ろうとする研究が発表されました。GABA作動性抑制ニューロンの変化が自閉スペクトラム症の発症に関与していると考えられています。

<研究所からのComment>
  自閉スペクトラム症は脳の発達の障害であることは分かっています。しかし、脳の機能のどこに、どのような問題が起こっているのかは、まだほとんどが解明されていません。この研究では、自閉スペクトラム症の方のiPS細胞を使って脳細胞の発達の過程を再現し、特有の変異があるのかを検証しています。
  発達障害を理解する、発達障害の方を理解する、と言ってもそう簡単なことではありません。しかしその中でも、その人の困難さを想像するという努力は欠かせないではないでしょうか。
 今は当事者の方がたくさんの発信をしてくれていますので、そのような情報から想像することも重要です。一方で、その困難さがどこから来ているのかということを知ることも、大切な視点であると思います。この研究の結果が示している内容は専門的なところもありますが、脳から発達障害を理解するという意味で、皆さんに知っておいていただきたいものです。

(以下詳細)
  自閉スペクトラム症(ASD)は脳の発達の障害であることは知られています。
 しかし、ほとんどのケースでは明らかな疾患の原因や、遺伝子レベルの原因が分かっていません。 人の脳の発達過程を再現するのは極めて困難なため、ASDの疾患原因の解明は進んでいません。
 この研究では、重度の原因不明のASDの方のiPS細胞を作り、3次元の脳組織を誘導するという方法で、脳の発達過程を再現し、その過程でどのような変化が起こっているのかを調べています。
  原因となるような遺伝子の突然変異は見つかりませんでしたが、細胞増殖や神経細胞(ニューロン)の分化、シナプス接合に関係する遺伝子の発現が増加している(つまり、神経細胞の増殖が長く続く)ことが発見されました。 また、ASDの方由来の脳組織では、GABA作動性抑制ニューロンの細胞分裂周期が加速しており、生産過剰になっていることが分かりました。 このGABA作動性ニューロンの過剰生産の原因は、転写因子であるFOXG1の過剰発現によることがわかりました。
  このような脳の発達過程における変化の程度は、症状の重症度と相関していると考えられます。 つまり、FOXG1によって引き起こされるGABA作動性ニューロンの変化によってASDが発症している可能性があることが示唆されます。

用語解説
<iPS細胞> 自分の体の一部(例えば髪の毛)から取り出した細胞から、色々な臓器を作り出せるというもので、別名「万能細胞」とも言われています。
<GABA(ギャバ)> 抑制性神経細胞(ニューロン)の神経伝達物質で、脳のニューロンのうち約30パーセントはGABA作動性の抑制性ニューロンであると言われています。このニューロンの抑制機能が失われると、てんかんなどの神経過興奮性疾患の一因となることが知られています。
<転写因子> DNAの遺伝情報をRNAに写す(転写する)過程を促進したり抑制したりする働きをするタンパク質。FOXG1はその転写因子のひとつ。


第9号:2015年9月11日

「テレビのつけっぱなしは子どもの行動に影響する!」
Chonchaiya et al. Elevated background TV exposure over time increases behavioural scores of 18-month-old toddlers. Acta Paediatr. 2015; doi: 10.1111/apa.13067.

  赤ちゃんのそばでテレビがつけっぱなしになっていたり、生後6か月時点ですでに大人向けのテレビ番組がついていたりする場合、全般的な発達の問題や攻撃的な行動が増えることが分かりました。

< 研究所より comment >
 大多数の大人や子どもにとって、テレビは生活の一部になっています。まだ小さいからテレビをつけていても分からないし影響もないだろうと安易に考えて、テレビのつけっぱなしの環境に赤ちゃんを置くのは、間違っているということになります。子ども、特に乳幼児に対するテレビの影響について、もっと注意を払わなくてはいけないということですね。子どもは自分で環境を選ぶことはできません。まわりの大人が適切な環境を整えることの大切さを考えていきたいです。

(以下詳細)
 6~18か月の間にテレビにさらされているか、大人向けのテレビ番組かどうかで、18か月時の行動にどう影響するか、194名の乳幼児について調べられました。 調査では、生後6か月と18か月の時にテレビ環境について母親に質問し、また18か月の時に子どもの行動について母親に回答してもらいました。 その結果、6か月から18か月の間にテレビにさらされる時間が増加している場合と、6か月時点で大人向けのテレビ番組がついている場合はともに、全般的な発達の問題と反抗的な行動が増加することが分かりました。 さらに、6か月時点で大人向けのテレビ番組がついている場合は、情緒的反応の問題、攻撃性、行動の外在化のスコアが高くなることが分かりました。 子どもの適切な発達のために、長時間テレビをつけていること、大人向けのテレビ番組を付けていることを避けるべきであると考えられます。



第8号:2015年8月21日

「自閉症は増えていない?」
Autism phenotype versus registered diagnosis in Swedish children: prevalence trends over 10 years in general population samples Lundström et al. BMJ 2015;350 (Published 28 April 2015)より

  スウェーデンで1993年から2002年に生まれた約110万人について調査した結果、自閉症の診断は増加しているものの、自閉症の症状自体は増えておらず、一定の推移をたどっていることが分かりました。

<研究所よりcomment>
 子どもの表れについて、あるいは子どもを取り巻く環境についての多くの問題が取り沙汰される昨今です。子ども自体が大きく変容してしまっているのではないか、と言う疑問を持つことも不思議ではありません。そんな背景もあって、自閉症を含む発達障害の有病率が上昇しているのでは、ということについてもしばしば話題にあがりますし、実際様々な調査も行われています。
 このスウェーデンの研究は、そうした様々な調査の中でも、際立って優れている点があります。
  1つは、国民全員が参加する疾患登録制度を利用していることです。このことによって、疫学調査の際にまず注意しなくてはならない、サンプリングの偏りによるバイアスを排除することができます。つまり偏った集団だけの調査結果では、信用できない、あてはまらない人がいるかもしれないでしょう、という懸念が払拭されませんが、もともと全国民が対象であれば、この調査で分かったことはおおよそ、すべての人に当てはめて考えてもいいだろうとなります。もちろん、スウェーデン国民にだけあてはまるんだろう、という疑問を完全には解くことはできませんが、しかし、対象地域全員が参加者であるという調査では、かなり信頼性が増すことは事実です。
 もう1つは、自閉症というものを捉える際に、「症状」と言う側面と、「診断」という側面の両方から計測が行われているという点です。症状自体は増えてはいない、診断のみが増えている、この二つの事実を並べてみた時に初めて分かることがあるのです。 こういった事実積み重ねていくことで、そもそも診断の機会が増えているから「自閉症」と診断される人が増えているのではないか、という疑問にも正確に答えることができるのです。

(以下詳細)
 自閉症の子どもはこの10年間で増えていると言われていますが、自閉症自体が増えているのでしょうか、あるいは自閉症の診断が増えているのでしょうか?
 スウェーデンには国民の疾患登録制度があり、診断がなされた場合、国民のIDと疾患名が登録されます。 このデータベースと、スウェーデンの双子に関する研究のデータベースを利用して、1993年から2002年の10年間に生まれた子どもについて、自閉症の症状と診断が調べられました。
  自閉症の症状自体が増えているのかどうかついては、双子に関する研究で、保護者への電話インタビューによって調べられました。 自閉症の診断が増えているのかどうかについては、疾患データベースで調べられました。
 この結果、自閉症の症状評価による有病率は、10年間でほぼ一定で、増加している訳ではありませんでした。 一方、自閉症の診断は、1993年の約0.2%から2002年の約0.5%まで直線的に増加する傾向がみられました。 これらの結果から、自閉症の原因となるような要因によって自閉症が増加しているというよりは、診断基準の変化などによって自閉症の診断が増えているのではないかと推察されます。



第7号:2015年8月1日

「子どもの落ち着きのなさや行動の問題は新生児期に予測できる!」
「Individual Differences in Newborn Visual Attention Associate with Temperament and Behavioral Difficulties in Later Childhood」( Papageorgiou et al., Scientific Reports 2015; 5, doi:10.1038/srep11264)より

 小児期の落ち着きのなさや行動上の問題が、生後1~4日の新生児期に、刺激対象をじっと見つめる時間の長さによって予測することができることが示されました。

< 研究所より comment >
  幼児期の子どもの落ち着きのなさや行動上の問題の原因として、何を思い浮かべるでしょうか。
 落ち着きのなさはADHDの主症状ですが、これは脳の機能の障害から生じていることであって、親の育て方やしつけの問題、本人の努力不足ではありません。 こうした脳機能の障害は、子ども時代のいつから予測が可能であるか、ということをこの研究では明らかにしようとしています。
 新生児の行動をその後の困難性の診断に使うための研究というよりは、困難性がどの時期から、どういう脳の機序により生じているのかということを明らかにする研究の一環と考えるとよいと思います。

(以下詳細)
  これまでの研究では、幼児期の注意の仕方に個人差があることが、小児期の行動のコントロール、落ち着きのなさ、多動・不注意と関連していることが示されています。
  この研究では、そのような行動のコントロールや落ち着きのなさ、そして行動上の問題が、幼児期よりさらに早い新生児期に、刺激対象をじっと見つめる時間によって予測することができるかどうかが調べられました。
  研究では生後1~4日の赤ちゃん80名について、刺激対象をじっと見つめている時間(凝視時間)が測定されました。 その後、その赤ちゃんが5~9歳になった時、その子の行動や気質についての質問紙を保護者に回答してもらいました。
 その結果、新生児期の凝視時間が長いほど、小児期に落ち着いていること、行動の問題が少ないことが分かりました。 行動のコントロールについては、凝視時間との関連はみられませんでした。



第6号:2015年7月17日

「青年期のうつ病の約3割はいじめが原因か!?」
「Peer victimisation during adolescence and its impact on depression in early adulthood: prospective cohort study in the United Kingdom」  (Bowes et al. BMJ 2015; 350: doi: http://dx.doi.org/10.1136/bmj.h2469)より

 イギリスの研究チームは、13歳の時にいじめを受けていた場合、18歳の時にうつ病と診断される確率が約3倍になることを報告しました。学校でのいじめを減らすことによって、青年期以降のうつ病を減らすことができるのではないかと期待されます。

< 研究所より comment >
  いじめ被害により子どもが深刻な影響を受けることは、容易に想像がつきます。
 今までの研究でも、いじめ被害を受けている子どもが、頭痛、腹痛、発熱などの健康上の問題や不登校、学業不振、自殺企図などの問題を持つことが分かっています。 では、被害経験が解消したのちには、子どもの心身への影響はないのでしょうか。
  実は、いじめ被害が長期にわたって様々な影響を被害者の心身に及ぼすことも分かっています。
 今回のこの研究では、13歳の時にいじめ被害を受けていた子どもが、5年後にうつ病を発症するリスクが高まるかということを検討しています。 うつ発症のリスクに関してだけでも、いじめ予防に大きな意義があることがわかります。しかも、いじめの負の影響は、これ以外にもまだまだたくさん報告されており、それは被害者ばかりか加害者に対しても指摘されています。
  いじめに対する社会の関心が高まっていますが、いじめ予防に関する正しい理解を社会に広めていくことも、私ども子どもの発達科学研究所の役割だと考えています。

(以下詳細)
  うつ病の発症は子どもから成人早期にかけて急速に増加し、18歳までの有病率は大人と変わらないと報告されています。このことから、学校ベースの予防プログラムが有効であると考えられますが、認知行動プログラムの成果はあまり上がっていません。
  イギリスの研究チームは、AVON縦断研究(ALSPAC)という追跡調査に参加した約6700名を対象に、13歳の時のいじめと18歳の時のうつ病にどのような関連があるのかを調べました。
 13歳の時に頻繁ないじめを受けていたと回答した683名のうち、101名(14.8%)が18歳の時に国際的な診断基準によって、うつ病と診断されました。 また、13歳の時に何らかのいじめを受けたと報告した1446名のうち、103名(7.1%)が18歳の時にうつ病と診断されました。 13歳の時にいじめを報告していない1769名のうち、18歳の時にうつ病と診断されたのは98名(5.5%)でした。
  いじめを受けていない場合に比べて、頻繁にいじめを受けていた場合、うつ病を発症する確率は2.96倍に増加しました。 因果関係があるとすると、18歳の時のうつ病のうち、29.2%がいじめによって説明されることになります。
  これらの結果は、青年期における学校でのいじめを減らすことによって、後のうつ病を減らすことができることを示唆しています。



第5号:2015年7月3日

「自閉症は“予測能力”の障害?」
「Autism as a disorder of prediction.」(Sinha et al. PNAS 2014; 111(42): 15220-15225.)より

  マサチューセッツ工科大学の研究者らによって、自閉症は予測能力の障害であるという仮説が提唱されました。多種多様といわれている自閉症の症状を、この仮説によって説明することができるとしています。

< 研究所より comment >
 自閉症スペクトラムの方々が様々な面で抱える困難さを、予測の能力の障害という仮説で説明しています。詳しい研究内容を読んでいただくと分かりますが、どれももっともらしく、自閉症の症状の種明かしのようにも感じられます。
  一方で、一般的に人は様々なシーンでこの、「予測」という能力を使っているのだとも気づかされます。そしてそもそも「予測」ということが様々な既知の情報の再統合なのではないか、と考えさせられたりもします。
  まだこれは一つの仮説ではありますが、更に検証を重ねて、人が、周りの世界をどのように感じ取って、認知し、それを基に行動として表出しているのか、自閉症スペクトラムでは、その過程のどこに違いがあるのか、ということが解明されていくのではという期待が高まります。
 「違いを知る」ことは相手を理解すること、関係を築くことの重要なステップです。誰に対しても、相手の「違いを認め尊重する」ことができるかかわりを大切にしていきたいですね。

(以下、詳細)
  私たちは、予測不能なことが起こったとき、手品みたいだと感じます。
 短時間の手品ショーなら楽しめますが、それが日常的に起こると参ってしまいます。
  自閉症はこの「予測」能力の障害であり、手品のような予測不能な世界にいることで、気持ちや行動のコントロールを失い、様々な症状として現れるのではないかという仮説が提唱されました。
  様々な自閉症の症状が、この仮説によって以下のように説明されています。

 同一性へのこだわり:健常な人でも、ストレスフルな状況では、例えば数学のテスト中に貧乏揺すりをするなど、常同的な行動をとるとされています。予測不能な出来事に対する不安の結果として、そしてその不安を軽減させるために儀式的な行動を繰り返すのではないかと考えられます。
・ 感覚過敏:健常な人が嫌な感覚刺激を避けられるのは“慣れ”が生じることによります。では“慣れ”はどのように起こるのでしょう?それは、その刺激がくることを予測することです。予測能力が障害されると、環境刺激がいつ起こるのか規則性を見つけにくいため、慣れが生じにくく、結果としてより大きなストレスを引き起こしていると考えられます。
 動きのある物体との相互作用の難しさ:物体の動きを予測して行動することが難しいため、事故に遭わないよう車を避けたり、ボールをキャッチしたりすることが苦手なのかもしれないと考えられます。
・ 心の理論の問題:心の理論は、ある人がどんな行動をとりそうか、過去の行動と現在の行動を結びつけることが必要とされる課題で、まさに予測能力を必要とするものです。これは予測能力が障害されていると、特に弱いところです。
・ 卓越した技能:自閉症の人は、カレンダーの計算や音楽、絵画などで優れた能力を発揮することがありますが、これらの分野は規則性が強いもので、結果の不正確さが少ないものです。特に正確に再現することに卓越しています。

  健常者では、予測に関係する脳部位は、大脳基底核、線条体、小脳であるとされています。自閉症が予測能力の障害であるとすると、これらの部位の変化が予測されます。 これまでは自閉症には症状の多様性があるとされてきて、それぞれの症状に応じた脳部位や遺伝子が調べられてきましたが、未だ見解の一致は得られていません。この仮説によって、様々な症状とその原因を特定することが可能になるかもしれません。



第4号:2015年6月19日

「食洗機がアレルギーを増やす!?」
Allergy in Children in Hand Versus Machine Dishwashing. (Hesselmar B et al. Pediatrics 2015; 135: e590-e597.)より

 スウェーデンの調査で、食洗機を使う家庭よりも手洗いで皿を洗う家庭の方が、子どものアレルギー疾患が少ないことが分かりました。微生物をきれいに洗い落とす食洗機よりも、手洗いの方が微生物に触れる機会が増え、免疫がつくのではないかと考えられています。

< 研究所より comment >
 国内での普及率はおよそ30%弱と言われる食器洗浄機。節水効果や時短効果などがあり、共働き家庭を中心になくてはならない家電と考える方も多いのではないでしょうか。更に食洗機のメリットとして、高温での洗浄による除菌効果もあげられます。乳幼児がいる家庭などでは、食中毒の予防のためにより清潔な調理環境を、と考えて食器洗浄機を使用する家庭も多いのではないかと思います。
  ところが、この「より清潔に」という食洗機の機能が、逆に子どもの健康を損なうリスクを高めるという研究結果が出たのです。研究では、食洗機の他にも発酵食品、殺菌処理されていない食品の効果についても検証しています。 単に食洗機の功罪の話ではなく、「より清潔に」という清潔志向が行き過ぎていないか、という警鐘ともとることができるのではないでしょうか。

(以下、詳細)
 ぜんそく、湿疹、アレルギー疾患は20世紀後半から増加しており、一つの原因によるのではなく、様々な原因が複雑にからみ合っていると考えられています。
 一つの仮説として、幼い頃から微生物に触れていると免疫的な耐性がつき、アレルギーが減るという「衛生仮説」がありますが、皿洗いや食生活などの生活習慣は微生物への接触と関係するのでしょうか?

 この研究では、そのような生活習慣がアレルギーと関連しているかどうかが調べられました。スウェーデンの7~8歳の子ども、約1000名に対し、ぜんそくや湿疹、鼻炎についての調査が行われ、同時に食洗機の使用や食生活などについても調べられました。
 その結果、食洗機を使用せず、手洗いで皿を洗っている家庭では、ぜんそく、湿疹、アレルギーが少ないことが分かりました。また、発酵食品を食べていたり、農家から直接買った卵や肉、低温殺菌されていないミルクなどを摂取していたりする場合も、アレルギーが少ないことがわかりました。手料理をしているか、授乳期間はどれだけかについては、この研究では差がみられませんでした。
 これらの結果について、微生物などもきれいに洗い落としてしまう食洗機よりも、手洗いの方が、また発酵食品や殺菌処理されていない食材の方が、微生物に触れる機会が増えることによるのではないかと研究グループは説明しています。
 清潔すぎる環境で育つとかえってアレルギー疾患が増えるとする「衛生仮説」を支持する結果といえるでしょう。


第3号:2015年6月5日

「相手の意図や行動を予測する」

Neuronal Prediction of Opponent’s Behavior during Cooperative Social Interchange in Primates

Haroush K, Williams ZM. Cell 2015; 160: 1233–1245)より.

 相手の意図や行動を予測する神経細胞が前帯状皮質というところに存在することが発見されました。この神経細胞は、相手との協力関係を築くためにも重要であるようです。

 

< 研究所より comment >
 正に、「空気を読む」ための脳部位が明らかになったということですね。

 私たちは、普段何気なく会話をしたり、相手の表情を見たりして、自然にコミュニケーションを図っています。しかし、何気ないこれらの行動の裏で、高次な脳の活動が行われているのです。

 この研究の成果が、社会的コミュニケーションの困難さを持つ人達への治療に繋がっていくかもしれません。今後の研究を期待したいですね。


〈以下、詳細〉
 社会的な相互作用を成功させるための秘訣は、相手の意図や行動を予測するということです。この研究では、相手の意図が分からない時に、自分の意図や行動とは別に、相手の意図を推測するという課題をサルにさせています。
 具体的には、2匹のサルを隣同士に座らせ、2匹が協力したときは4個のジュースがもらえ、2匹とも裏切ったときは2個、どちらかが裏切ったときは、裏切った方に6個のジュースがもらえるというものです。
 実験を続けると、安定したご褒美をもらえるように徐々に協力するようになりますが、いったん相手が裏切ると、その次は自分も裏切る確率が上がります。しかし、相手をテレビに映っているだけのサルに変えたり、部屋を別にして結果だけ分かるようにすると、協力関係は半分以下になります。このことから、協力関係が成立するには近い距離にいることが必要であることが分かります。研究グループは、このように、相手の行動を推測する時に活動する神経細胞群が前帯状皮質(ACC)というところに存在することを発見しました(帯状皮質ニューロン)。前もって相手の決断が分かるようにすると、相手の意図を推測することがなく、協力するか裏切るか、自己決定になるので、帯状皮質の別の神経細胞が働くことが分かりました。また、この帯状皮質ニューロンが働かないようにすると、協力関係が成立しなくなることから、帯状皮質ニューロンは協調的な社会的相互作用を可能にしていると考えられます。研究グループは、この発見が社会的な行動の障がいの治療に役に立つかもしれないとしています。




第2号:2015年5月22日

「子どもの自殺を防ぐ~科学的根拠に基づくプログラムの導入~」

School-based suicide prevention programmes : the SEYLE cluster-randomised , controlled trial

(Wasserman,D et al. Lancet 2015; 14: 61213-7.)より
 

若者の自殺は重要な公衆衛生上の問題です。

若者の自殺を防ぐには、科学的根拠に基づいた予防プログラムが必要であると考えられます。

これは、スウェーデンの研究グループによる報告です。学校ベースの自殺予防プログラムにより、生徒の自殺企図や深刻な自殺念慮を減少させることができました。つまり、科学的根拠に基づいた介入プログラムが有効であることを実証しています。

< 研究所より comment >

若者の自殺という重要、深刻な課題に対して、闇雲に手を打つのではなく、科学的な根拠に基づいた手立てを行っていくという姿勢で、国のレベルの対策が行われています。

では、我が国においてはどうでしょうか。

病気の際、私たちは、医師の勘や経験に基づいた治療を受けるのではなく、きちんとその効果が科学的に検証された治療や服薬の指示を受けます。

一方で、子どもの育ちの問題に対しては、たまたま選択された指導方法や、指導者の勘や経験に基づく対応方法を取られることがほとんどです。子どもの育ちの問題も、適切に対応しなければ後に大きな影響を及ぼすという点で、病気とその重要性は変わりません。教育の場においても、少しでも効果がある、効果がより高いと科学的に明らかになっている方法を取っていくべきといえるでしょう。

「子育てに、教育に、科学を!」私たちは、我が国においても、科学的に根拠のあるプログラムを子どもたちの提供し、全ての子どもが健やかに成長できる社会を作っていきたいと願っています。

 

以下、詳細

<参加者>

EU 10ヶ国の168校、1万人以上の生徒(14-15歳)

<方法>

学校ベースの自殺予防プログラムの実施とその効果検証

研究は200911月から201012月まで行われました。

各学校は、3つのプログラムのうちの1つ、あるいは対照群に無作為に振り分けられました。

3つのプログラムは、以下の通りです。

(1)  「門番」プログラム

アメリカで開発されたプログラムで、門番(訓練を受けた教職員)が自殺のリスクがある生徒に気づき、コミュニケーション技能を高めたり専門家のケアを受けるよう勧めたりするもの。

(2)  生徒を対象とした「メンタルヘルスへの気づき」プログラム

この研究で開発されたもので、生徒同士でロールプレイをしたり、ポスターを貼ったり、レクチャーを受けたりして、うつなどの知識や、ストレスに対処するスキルについて学ぶもの。

(3)  「専門家によるスクリーニング」プログラム 

これも、この研究で開発されたもの。最初に質問紙による検査を行い、設定された得点以上の生徒に対して専門家による検査を勧めたり、必要であれば医療機関の受診を勧めたりするもの。

      <結果>

介入プログラムから3ヶ月後は、いずれの群にも差はみられませんでした。介入から12ヶ月後、「メンタルヘルスへの気づき」プログラムを実施した学校では、対照群に比べて自殺企図、深刻な自殺念慮が減少していました。他の2つのプログラムを実施した学校では、対照群と比較した差はみられませんでした。なお、研究期間中に自殺した生徒はいませんでした。これらの結果は、生徒を対象とした「メンタルヘルスへの気づき」プログラムが有効であること、学校ベースの自殺予防プログラムが有効であることを示しています。





創刊号:2015年5月15日

ADHDの子どもへの睡眠指導の効果」

Impact of a behavioural sleep intervention on symptoms and sleep in children with attention deficit hyperactivity disorder, and Parental mental health: randomized controlled trial

(Hiscock et al. BMJ 2015;350) より


 注意欠如・多動症(ADHD)の子どもに対して、簡単な行動療法的な睡眠指導を行うことで、睡眠の問題だけでなく、ADHDの症状や行動、生活の質(クオリティオブライフ:QOL)、日常生活機能、ワーキングメモリが改善することが報告されました。


以下・詳細

<参加者>

この研究は、オーストラリアの21の小児科施設で行われ、5才~12才のADHDの子ども、244名が参加しました。参加した子どものほとんどが、薬物療法を受けていました。

<方法>

参加者は2グループに無作為に割り当てられ、一方のグループのみが2回のコンサルテーションと電話によるフォローアップの介入を受けました。1回目のコンサルテーションでは以下のことが行われました。

  子どもの睡眠の問題の査定する。

  子どもの睡眠をどうコントロールするかについて目標を親と設定する。

  「通常の睡眠とは」、「睡眠サイクル」、「よくある睡眠の問題」、「睡眠の問題を管理する方法」についての情報を親に伝える。

  子どもの睡眠の問題に沿った行動療法的睡眠管理プランを作成する。


行動療法的睡眠管理プランの例  

  不適切な睡眠については、親は子どもの主張を無視し、就寝時刻の決まりに従わせるようにする。

  就寝時刻を一時的に遅く設定して徐々に早くする一方で朝は決まった時刻に起こすことによって、睡眠リズムを整える。

  不安に関連した不眠症については、視覚的なイメージやリラクゼーションによって不安を軽減することで対応する。 

2回目のコンサルテーションとフォローアップの電話は、睡眠について再調査し、提案した方法を補強し、問題を修正するために行われました。

<結果>
        ・ 介入群の家族は3ヶ月時点でも6ヶ月時点でもADHDの症状が改善したと報告し、介入指導の効果は持続していました。
        ・ 介入群の子どもでは、中等度~重度の睡眠障害が少なくなり、治療が必要な子どもが減少しました。
        ・ 介入群の家族は、親のメンタルヘルスを除く全ての結果について、改善があったと報告しました。
        ・ 教師も36ヶ月の両時点で子どもの行動の改善を報告しました。
        ・ 測定された人数は少ないものの、アクチグラフィーで測定された睡眠時間は介入群の方が長い傾向が見られました。